沙石集

【沙石集】
1283年、僧・無住道暁(1226~1312)の作。説話を門として仏法をさとらせようという意図の仏教入門書と見てよい。庶民的な態度で、滑稽な笑話をはさんでいる。全十巻。




児の飴食ひたる事(巻第八-十一)~ある山寺の坊主、慳貪なりけるが、~

【冒頭部】
ある山寺の坊主、慳貪なりけるが、飴を治してただ一人食ひけり。

【現代語訳】
ある山寺の坊主は欲深であったが、飴を作ってただ一人で食べていた。しっかり管理して、棚にいちいち置いていたのだが、一人いた小児には食べさせないで、「これは人が食べてしまうと必ず死ぬ物だぞ。」と言っていたけれども、児は、ああ、食いたいものだ、食いたいものだと思っていたので、坊主が外出した隙に、棚から飴を取りおろした時に、ついこぼして、小袖にも髪にも飴をつけてしまった。日ごろから欲しいと思っていたので、匙に二、三杯しっかり食って、坊主が大切に所蔵していた水瓶を、雨だりの石に打ち当てて、打ち割っておいた。坊主が帰って来たので、この児はさめざめと泣く。(坊主が)「何事で泣くのか。」と尋ねるので、(この児は)「大事な御水瓶を、過って割りました時に、どのような御叱責があるだろうかと、情けなく思われて、このまま命生きても仕方がないと思って、『人が食うと必ず死ぬ』とおっしゃいます物を、匙に一杯食っても死なず、二三杯まで食べましたけれどもさっぱり死なず。最後は小袖に付け、髪にも付けましたけれども、未だに死ねません。」と言った。飴は食われて、水瓶は割られてしまう。欲深の坊主は得るところが何もない。児の知恵は一通りでない。学問の才能も(こうした知恵に)はなはだ劣ってはいないだろうよ。

【語句】
したたむ・・・処理する。整理する。
うちこぼして・・・ついこぼして。
よしなし・・・①理由がない。②仕方がない。③関係がない。④つまらない。ここは②。









PAGE TOP