竹取物語~なよ竹のかぐや姫・火鼠の皮衣・御門の求婚~




なよ竹のかぐや姫~竹取の翁、竹を取るに~

【冒頭部】
竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけて後に竹取るに、節を隔ててよごとに金ある竹を

【現代語訳】
竹取の翁は(相変わらず)竹を取っていたが、このこどもを見つけて以後、竹を切ると、竹の節と節との間の空洞の部分に黄金のはいっている竹を発見することが度々に及んだ。こうして、翁は次第に金持ちになってゆく。
(一方)このこどもは、養っている間に、(驚くほど早く)ぐんぐんと大きくなってゆく。(養って)三か月ほどになる間に、普通の人間なみの背たけの人になったので、吉日を占い定めて(=相して)、髪上げの儀式をさせ、裳を着せる。翁は姫を帳の中から出すこともせずに、たいせつに養育する。この子の容貌の清らかに美しいことは、他に比類がなく、(その住む)建物の中は、暗い所がないほど光が満ち満ちている。翁は、(病気などで)気分がすぐれず、苦しい時も、この子を見ると、その苦しさも消えてしまう。(また、腹の立つような時も、この子を見ると)その腹立たしい気持ちも慰められるのであった。翁は、(黄金のある)竹を取ることがずいぶん久しくなった。(それで)勢力のある富豪になったのである。(さて)この子がもう十分一人前に成長したので、三室戸斎部のあきたを(名付親として)招き、この子の名
を付けさせる。あきたは、なよ竹のかぐや姫と命名した。この命名の儀式から三日間、饗宴を開いて管弦の遊びをする。それもまあありとあらゆる遊びをしたものである。男はだれかれかまわず呼び集めて、たいそう盛大な遊びをする。

【語句】
よ・・・竹や葦の①節と節との間、②節そのもの。ここは①。
やうやう・・・次第次第に、だんだん。
髪上げ・・・女子の成人の儀式。
さうして・・・「左右して」で、いろいろ手配しての意。
裳・・・元来婦人用のはかまであるが、中古では婦人の正装をさす。
裳着・・・裳を初めて着ける儀式。(女子の成人式)
帳・・・貴人などの居所の周囲をかこった垂れぎぬ。
けうら・・・清ら
いきほひ猛の者・・・①権勢などが盛んな者、②経済的に富有な者。ここでは②。
三室戸・・・地名(京都府宇治市)。
斎部あきた・・・人名。
なよ竹・・・しなやかな竹。
かぐ・・・輝く。
うちあげ・・・手を打って高くあげる。
かしこし・・・①恐れ多い、尊い、恐ろしい、②才能がある、すぐれている、特別だ、はなはだしい。





火鼠の皮衣(一)~右大臣あべのみむらじは~

【冒頭部】
右大臣あべのみむらじは、たから豊かに、家のひろき人

【現代語訳】
右大臣、阿倍のみむらじは、財宝も豊富に持ち、一門が栄えている人でいらっしゃった。その年、わが国に来航していた唐の貿易船の、王卿という人のところに、手紙を書いて、「火鼠の皮というものがあるそうだが、それを買って寄こしなさい、」といって、お仕え申しあげる人の中でも、しっかりした者を選んで、小野の房守という人を、(手紙に)付けて、王卿のもとに遣わす。房守はその手紙を持って唐に行き着き、唐にいる王卿に金を取らせる。王卿はみむらじの手紙を開けて見て、返事を(次のように)書く。
「火鼠の皮ごろもは、この唐の国にないものです。評判には聞いていますが、まだ(私も)見ていないのです。この世に実在するものであるなら、この唐にもだれかが持ってやってくるでしょうに(持ってくる者がいないのをみると、実在しないのでしょう)。たいそうむずかしい交易です。けれども、もし、(その産地から)インドへ偶然だれかが持って渡来しているものならば、金持ちの家などにたずねていって入手しましょうが、そうでなくて、実在しないものだったら、使いに託して、お預りした金は、お返し申しあげましょう。」と述べている。

【語句】
長者・・・金持ち。
とぶらふ・・・訪問する。様子をたずねる。見舞う。

火鼠の皮衣(二)~かの唐船来けり~

【冒頭部】
かの唐船来けり。小野のふさもりまうで来て

【現代語訳】
あの唐の貿易船が到来した。小野の房守が(その船で)帰ってきて、京へ上るということを聞いて、阿倍のみむらじは、ひじょうに足の早い馬でもって使者を走らせ、房守を迎えにおやりになったそのとき、房守も馬に乗って、筑紫からわずかに七日間で京へ上って来たのだった。王卿の手紙を見ると、その言ってきたことは、
「火鼠の皮ごろも、やっとのことで、人をさがしにやって、さがし出してさしあげます。現在の世の中にも、昔の世の中にも、この皮はそうやすやすとはないものなのでした。昔、天竺のりっぱな高僧がこの唐の国に持って渡来したのが、西の山寺にあるということを聞きつけまして、朝廷に申しあげて、ようやくのことで買い取って、こうしてさし上げます。代金の額が少ないと、(交渉にあたった)国司の役人が私の使者に申しましたので、王卿の財宝を加えて買いました。もう五十両の金を私にいただきたい。貿易船が帰国するのに託して、お送り下さい。もし不足分の金を下さらぬというのでしたら、あの皮ごろもという代物をお返し下さい。」と言っているのを見て、阿倍のみむらじは、「何をおっしゃるのか。あとわずかの金だというではないか。かならず送るはずのものではある。うれしいことに、よく捜して送ってよこしたものだなあ。」といって、唐の方に向かって、王卿の方を伏し拝みなさる。この皮ごろもを入れてある箱を見ると、さまざまの綺麗な瑠璃をちりばめて色彩ゆたかに作ってある。皮ごろもを見ると、紺青の色である。毛の先端には金色の光がちかちかと美しく輝いている。まことに宝物と見えて、その綺麗なことは、他に肩を並べるものもない。火に焼けないということよりも、華麗な点において、これに及ぶものはない。「なるほど、これならかぐや姫が欲しがりなさるのももっともな品であるよ。」とおっしゃって、「ああ、ありがたい。」といって、箱にお入れになって、何かしかるべき枝に付けて、みむらじ自身の化粧もたいそう念入りにして、「今夜はきっとそのままかぐや姫のところに泊ることになるだろう。」とお思いになって、歌をよんで、皮ごろもに添えて持っていらっしゃった。その歌は次のように、
限りなき・・・(あなたに対する私の心は限りない思いですが、その火にも焼けない皮ごろも《をお届けします。これで私の思いもかないますので》、今まで恋の思いに泣きぬれていた袂も乾いて、今日はその衣を着ましょう)と書いてある。

【語句】
なに仰す・・・なにをおっしゃるか。
けうらなる・・・清らかでうつくしい。
ならびなし・・・並ぶものがない。
いたく・・・甚しく。





火鼠の皮衣(三)~家の門にもていたりて立てり~

【冒頭部】
家の門にもていたりて立てり。竹取出できて

【現代語訳】
阿倍のみむらじは、皮ごろもを持って、竹取の家の門に着いて、そこ立っている。竹取が出て来て、その皮ごろもを受け取って家にはいり、かぐや姫に見せる。かぐや姫がその皮ごろもを見て、言うことには、「これは立派な皮のようです。けれども、これが他の皮と違ってほんとうの火鼠の皮かどうかはわかりません。」竹取が答えて言うことには、「とにもかくにも、まずあの方を家の中に招き入れ申しあげましょう。これはこの世の中には見られない皮ごろものようすですから、これをほんとうの火鼠の皮ごろもとお思いになって下さい。あの方をひどく困らせ申しあげなさらないようになさい。」と言って、阿倍のみむらじを家の呼び入れて、着座させ申しあげる。このように呼び着座させて、こんどは姫も必ず結婚するだろうと、竹取の妻も心に思っている。竹取の翁は、かぐや姫がいつまでも独身でいるのが嘆かわしいので、何とか高貴な人と結婚させようと、いろいろ画策するのだけれど、(肝心の姫が)どうしてもいやと言うことなので、それを無理に強いることもできないので、(今回はと期待するのも)道理である。かぐや姫が翁に言うことは「この皮ごろもを、火に焼いたときに、もし焼けなかったら、そのときこそ、真実の火鼠の皮ごろもだろうと思って、あの方の言うことにも従いましょう。あなたは、これは世の中にないものだから、真実の皮ごろもだと疑いをはさまずに思いなさい、とおっしゃいます。でも、やはりこれを焼いてためしてみましょう。」と言う。竹取の翁は、「それは、もっともなことをおっしゃったものだ。」と言って、右大臣に「姫はこう申しております。」と言う。右大臣が答えて言うことは「この皮は唐の国にもなかったのに、やっとのことで捜し当てたものなのです。何の疑いがありましょうか。そうは言っても(疑いがあるのなら)早速焼いてごらんなさい。」と言うので、右大臣が従者に命じて火の中に皮ごろもをくべてお焼かせになると、めらめらと焼けてしまった。姫は、「それごらんなさい。別なものの皮でしたね。」と言う。右大臣はこれをご覧になって、顔色は草の葉の色のようにまっ青になってすわっていらっしゃる。かぐや姫は、ああうれしい、と喜んでその場にいる。あの右大臣がおよみになった(「限りなき・・・」の)歌の返歌を次のようによみ、箱に入れて返す。歌には、
なごりなく・・・(この皮ごろもがあとかたもなく燃えると初めから知っていたら、心配なんかしないで、火にもくべずにおいて見るのでしたのにねえ―《せっかくの偽物を惜しいことをしました》)と書いてあったものだ。そんな次第で右大臣は、家に帰っていらっしゃった。
世間の人々は、「阿倍の右大臣は、火鼠の皮ごろもを竹取の家に持っていらっしゃって、かぐや姫といっしゃにお住みになるということだね。ここにいらっしゃるのか。」などとたずねる。そこにいた人が言うことに「皮は火にくべて焼いたところ、めらめらと焼けてしまったので、かぐや姫は右大臣と結婚なさらない。」と言ったので、これを聞いて(からのち)しっかりした所のないものを、「あへなし」(はりあいがない―阿倍なし)というようになったのである。

【語句】
とまれかくまれ・・・ともかく。いずれにしても。
あなうれし・・・まあうれしい。
あへなし・・・あっけない。





御門の求婚(一)~さて、かぐや姫~

【冒頭部】
さて、かぐや姫、かたちの世に似ずめでたき事を

【現代語訳】
さて、かぐや姫は、その容貌が世間に類のないほど美しいということを、帝がお聞きあそばして、内侍のなかとみのふさこにおっしゃること、「多くの人の身をほろぼして、しかも結婚しないという評判のかぐや姫は、いったいどれほどの女なのか。おまえが姫の家へ行って見ておいで。」とおっしゃる。ふさこは勅命を受けて竹取の家にやってきた。竹取の家では、恐懼して、ふさこを招き入れて面会した。竹取の妻に内侍がおっしゃること、「帝のおことばに、かぐや姫の容貌がすぐれていらっしゃるという話だ。よく見て来るがよい、という仰せがございましたので、こうして私が参ったのです。」と言うので、妻は、「それなら、そのように姫に申しあげましょう。」と言って奥にはいった。
(妻が)かぐや姫に、「早速あの御使いにお目にかかりなさい。」と言うと、かぐや姫は、「私は特に美しい容貌でもない。どうして御使いにお目にかかれましょう。」と言うので、「困ったことをおっしゃるものですねえ。帝の御使いをどうして疎略に扱えましょうか。」と妻が言うと、かぐや姫が答えるには、「帝が私をお召しになって何かおっしゃることも、私は恐れ多いとも思いません。」と言って、一向に御使いにお目にかかろうともしない。かぐや姫は自分が生んだ子のようなものだけれど、こちらが気遅れするほど、そっけない調子で言うものだから、妻も自分の思うようにせき立てることもできない。妻は、内侍のところへもどって来て、「残念ですが、この幼いこどもは情のこわい者でございまして、お目にかかりそうにありません。」と申しあげる。内侍は「かならずかぐや姫を見申しあげて来い、と帝のご命令がありましたのですから、見申しあげないでは、どうして宮中に帰参できましょうか。国王の仰せになったことを、現にこの世に住んでいらっしゃる人が、お受けなさらないでいられるものでしょうか。道理に合わぬことをなさるものではありません。」と聞き手が気遅れするほどきっぱりと言ったので、これを聞いて、なおのことかぐや姫は聞き入れるはずがない。「国王のおことばにそむくというのなら、早速に私をお殺しになってくださいませ。」と言う。

【語句】
うたて・・・ますます。ひどく。あやしく。不気味に。
畏し・・・恐れ多い。ありがたい。
おろそかなる・・・疎略だ。簡略だ。
言はれぬ・・・言うことのできない。





御門の求婚(二)~この内侍帰り~

【冒頭部】
この内侍帰り、このよしを奏す。御門きこしめして

【現代語訳】
このふさこの内侍が宮中に帰り、ことのいきさつを奏上する。帝はそれをお聞きあそばして、「(その姫の強情さが)多くの人を殺してしまった心なのだなあ。」とおっしゃって、(そのときは)そのままになったけれど、やはり姫のことは心に思っていらっしゃって、この女の計略に負けられようか、とお思いになって、(竹取に)仰せ下されること、「おまえが持っておるかぐや姫を私に献上せよ。容貌が美しいとお聞きになって、御使いを賜ったのであるのに、そのかいもなく、とうとう姿を見せないでしまった。こんなふうにふまじめなくせをつけてよいものか。」と仰せになる。翁は恐懼してご返事を申しあげるには、「この女の子は、とうてい宮仕えをいたしそうにもありませんので、困っております。けれども家に帰って、仰せ言を伝えましょう。」と奏上する。これを帝がお聞きになって、翁に仰せられる。「姫は翁の手で生育させたのであろうのに、どうして翁の思いどおりにならないことがあろう。この女(かぐや姫)をもし私に仕えさせてくれたならば、翁に官位をどうして賜らないであろうか(かならず与えよう)。」
翁は喜んで、家に帰って、かぐや姫に対して説得することは「これこれと帝は仰せられたのだよ。これでもなお、あなたは宮仕えをなさらないおつもりか。」と言うと、かぐや姫が答えて言うことに、「そのような宮仕えはけっしていたしますまい、と思うのに、無理に私に宮仕えをおさせになるのでしたら、私は消え失せてしまいますよ。あなたに官位をさしあげておいて、私は死ぬだけのことです。」翁が返事をすることに「そんなことをなさってはいけない。わが子を見申しあげないのでは、官位も何の役に立とうか。それはそうとしても、どうしてあなたは宮仕えをしようとなさらないのか。(宮仕えを拒否して)お死になさるといういわれがあるだろうか(あるはずがない)。」と言う。姫は「(そうお思いなら、私の言うことは)やはり嘘なのだろうと、私を宮仕えさせてみて、死なないでいるかどうか、ためしてごらんになって下さい。(これまで)多くの人の一通りでなかった気持ちを、私がむだにしてしまったのは気の毒なことです。それをきのうきょう帝がおっしゃるからといってそれに従うことになったら、人聞きが恥ずかしい。」と言うので、翁が答えて言うことに、「天下のことは、どうであってもこうであっても(それはかまわない)、あなたのお命があぶないということこそ大変な障害なのだから、やはり姫は宮仕えしそうにもないということを、宮中に参って申しあげよう。」と言って、参上して申しあげることに、「帝の仰せ言の恐れ多さに、あのこどもを献上しようとしていろいろいたしましたら、宮仕えに出仕させたら死んでしまう、と申します。宮つこまろが自分の手で生ませた子でもありません。昔、山で見つけたのです。そんなわけで、心の持ちようも世間一般の人に似ていないのでございます。」と人を介して奏上する。

【語句】
たいだいし・・・不謹慎だ。不真面目だ。
まかりて・・・退出して。
おほし立つ・・・養育する。
もはら・・・全く。一向に。
そら事・・・うそ。ありもしないこと。





御門の求婚(三)~御門仰せ給ふ~

【冒頭部】
御門仰せ給ふ、「みやつこまろが家は、山もと近かなり

【現代語訳】
帝が仰せられる、「みやつこまろの家は山のふもとに近いと聞いている。御狩りの行幸をなさるようによそおってかぐや姫を見てしまおうか。」と仰せになる。宮つこまろが申しあげるには、「それはたいへんよいことです。なに、姫がまったく油断しておりますようなときに、突然行幸して姫をご覧になりますなら、自然にご覧になるにちがいありません。」と奏上するので、帝は急に日を決めて御狩りにお出ましになり、かぐや姫の家におはいりあそばしてご覧になると、あたり一面に光り輝いて美しい姿ですわっている人がある。これがかぐや姫であろうとお思いになって、そばへ近づかれると、姫は逃げて奥へはいる、その袖を帝がおつかまえになると、姫は顔を袖でおおっておそばにいるが、帝は初めてご覧になったので、比べものもなく美しいとお思いになり、「もう離さないよ。」といって、連れておいでになろうとすると、かぐや姫が帝に答えて奏上する。「私の身は、もし私がこの国に生まれておりましたならばお召使いにもなれましょうが、(そうではありませんから)連れていらっしゃることはたいそうむずかしうございましょう。」と奏上する。帝は「どうしてそんなにむずかしいことがあろう。やはり連れておいでになろう。」といって、御輿を近くにお寄せになると、このかぐや姫は、ぱっと影になってしまった。帝は、とらえようとしたかいもなく、残念だとお思いになり、(同時に)なるほど普通の人間ではなかったのだなと思し召されて、「それでは、御供に連れて行くのはやめよう。もとの姿におなりなさい。せめて、その姿を見て、宮中へ帰ろう。」と仰せられたところ、かぐや姫はもとの姿になった。帝はかぐや姫をすばらしいとお思いになる気持ちをやはり制止できない。このように姫を見せてくれた宮つこまろのてがらをおほめになる。そこでみやつこまろは帝にお仕えしている百官の人々に対し、たいそう盛大な饗応をしてさしあげる。

【語句】
心もなくて・・・不注意であって。ぼんやりして。
きと・・・ぱっと。さっと。
いかめしく・・・おごそかに。盛大に。





御門の求婚(四)~御門、かぐや姫を止めて~

【冒頭部】
御門、かぐや姫を止めて帰り給はんことを

【現代語訳】
帝はかぐや姫をこの家に残してお帰りになることを、心残りだ残念だとお思いになられたが、(姫を連れて行くことはできないので)魂をここに残したような気持ちがしてお帰りあそばした。御輿にお乗りになってから、かぐや姫に、
帰るさの・・・(帰り道の行幸は、どうしても心が進まない気持ちがしてつい振り返って心が残る。これも私にそむいてあとに残るかぐや姫のためなのだよ)姫は御返事を、
葎はふ・・・(雑草の生い茂る賤しい家に長年暮らしてきたこの私が、どうして今更宮仕えをして玉の台のような御殿に暮すことを考えましょうか)この返歌を帝はご覧になって、どうしてお帰りになられようか、帰る場所もないようなお気持ちになられる。お気持ちは、いっこうに立ち戻ることができそうにも思われなかったのであるが、そうかといって、この家に夜を明かされるわけにもいかないので、宮中にお帰りあそばされた。いつもおそばにお仕え申しあげる婦人をご覧になられると、かぐや姫のそばに寄ることさえできそうにないのであった。他の人よりは美しいと、それまでお思いになっていた人だったのが、かぐや姫と比較してごらんになると、まるで同じ人間とは思われない。ただかぐや姫のことが御心から離れず、帝はただ一人でお暮しなっている。つまらなくて、御夫人方のところへもいらっしゃらない。もっぱらかぐや姫の御もとにお手紙を書いてお送りになる。姫の御返事は思し召しに背いたといってもさすがに情をこめて返し、こうして手紙を交換なさって、木や草(の風情)につけても興味深く御歌をよんでお遣わしになる。









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